楽園追放

 

押し倒されて唇を奪われて(おまけに舌まで入れられて)これはいわゆる処女喪失の危機かと冷や汗をたらす。

いやいや。

それ以前に近親相姦、実の弟(しかも同性愛と言う二重苦だ!)とはまずいだろうとティキは汗って己の腹を跨いで顔を寄せている最愛の弟の白く長い睫をじっとこの上なく混乱しながら眺めていた。

数十秒、或いは数分。

ひょっとしたら一時間かもしれない。

口内を好きに食い荒らしていった舌が離れて、アレンはいやらしく糸を引いて顎を伝い落ちる二人の体液を赤い舌を閃かせて舐めとって、満足そうに笑った。

「あー、アレン?」

「なんですか、ブラザー?」

「不満があるなら口で言ってな…というか、怒らせること俺したか?記憶にないんだが…」

困り果てて両手を挙げてホールドアップ。

機嫌の悪い時の弟は酷く攻撃的で即物的で意味もなくスキンシップを求めてくる。

今回もそれだろうと無理やり思い込んで、いつものように他愛無い会話で終わらせてしまいたい。

だって幾らなんでも本当にまずいだろう?

だからアレン。

お願いだからいつものように笑いながら怒って文句を言ってくれ。

「そうやって見てみないふり、もうやめませんか?マイ・ブラザー」

ニッコリ笑って、アレンはティキのタイに手をかけた。

願いどおりに、笑いながら怒ってくれて。

だけど、避けて通りたかった言葉を吐いてくれました。

「アレン」

「ねぇ、もう目を逸らすのは止めましょう、ブラザー」

しゅるりと音を立てて引き抜かれていく黒いタイがやけに目にいたい。

真っ白なアレンに一番映えて、相応しい色。

「アレン」

お願いだから

「ねぇ、僕と落ちてください」

それ以上

「選ばれた僕たちは、新しい世界を夢見る」

言わないで

「なら、アダムとイブが僕と貴方でなにが悪いんですか?」

泣きそうな顔で笑って落とされる口付けは甘く、あまく。

それはきっとアダムとイブが食べた禁断の果実。

「イブはアダムの肋骨から生まれたんです。ねぇ、それはひょっとしたら近親の禁忌なんかより、もっと罪深い事だと思いませんか?」

そうだな、アレン

「だって、隣人じゃなくて、自分を愛したんですから」

それはなんて醜悪な自己愛。

最初の人はいつだって罪にまみれている。

「だから」

胸に頭を乗せて、震える弟の肩に天を仰いで瞳を閉じる。

「神様なんかより僕を選んで、ブラザー」

それでも名前を呼ばずにブラザー(兄)と呼ぶお前の弱さに悲哀を覚える俺はきっと間違っている。

いつだって、お前に名前を呼ばれたかったんだ。

この感情に気付いた日から、決して口にされなかった俺という個人を現す名前。

ああ、お許しください聖なる父よ。

俺は今から罪を犯します。

この世界で最初に侵された罪と同じように、禁断の果実を口にします。

叶うなら、その怒りの雷が落ちるのは、二人、一つに溶け合った時でお願いします。

利己的な願いを呟いて、兄は弟の背がしなるほど強く強く抱き締めた。

 

さようならマイ・ブラザー

 

私は家族を捨てて呪われし恋人を手に入れました。

 

今日この時より、貴方は私の伴侶となる。

 

鳴り響く祝福の鐘の音を聞いて、今、世界が壊れる。

 

新しい世界で最初に産み出されるのは、エゴと言う名の化物でしょう。

 

その化物にすら祝福を下さるのなら、貴方はなんと慈悲深い御方!!

 

 

 

おお!!ジーザス!!

祝福あれ!!

 

 

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